『湘南人肉医』大石圭
- 作者: 大石圭
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/11/01
- メディア: 文庫
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内容は……まあ、題名の通り。更に章題が素晴らしいので書き出してみると、「人間の頭が茹であがるには1時間かかる」「女性の体の中では上腕二頭筋がいちばんうまい」「生き血は冷やしたほうが飲みやすい」などなど……どうです? 読みたくなってきたでしょう?
グロテスクなのは苦手、というあなた。大丈夫。読後感からいえば、上に挙げた『クールキャンデー』の方がよっぽど悪い。確かに、その手の描写は緻密で「血とか肉とか出て来るだけでダメ」という方には薦められませんが、分析的で過度におどろおどろしくはないので題名から想像するよりは気持ち悪くありません。むしろ、料理する場面が美味しそうに感じられてしまって、そっちの方にヤバさを感じますw
それには、主人公の性格設定も関係しているんだろうな。主人公は(私たちの常識に照らせば)異常者なのに、どうしてか感情移入できてしまう。彼は、自分の所業が間違っていることもわかっているし、それを正当化することもない。かといって、罪悪感にひどく苛まれているわけでもない。ただ、どうしようもないこととして受け止めている。覚悟している。その態度には、哀しさを覚えこそすれ、嫌悪は感じない。
そしてなにより、ラストの美しさといったら! 静かな湖面を思わせる、静謐な美しさ。シリアルキラーの物語なのに、どうしてこんなに感動的なのか。あれだけ絵になるシーンも、そうないと思う。もちろん、題材が題材なだけに爽やか、とはいかないけれど。
評価:B