『空ノ鐘の響く惑星(ほし)でⅨ』渡瀬草一郎

空ノ鐘の響く惑星で〈9〉 (電撃文庫)

空ノ鐘の響く惑星で〈9〉 (電撃文庫)

ああ、おもしろいなあ。話としてももちろんおもしろいけど、それとはまた別に、外枠は王道の戦記ファンタジーなのに、通底している考え方は普通とは逆、ってあたりが。
今回、明かされたラトロア元首の目的――すなわち、管理された平和よりも、自由を選ぶ――って、普通主人公側の考え方に近い。メインターゲットである中高生が、どうしたって管理される側にあるわけで、それを考えれば、普通はそうした支配から逃れる話の方が多くなるのも道理なわけだけど。
けれど、空鐘では、停滞と一体の平和が肯定的に描かれ、破壊と裏腹の変化が否定的に描かれる。いわば、「終わりなき日常」の肯定? って、日常の終わることを知る異世界ファンタジーでそれを言うのは余りに的外れか。閑話休題。まあ、平穏を乱すものを否定的に描くってのは当然といえば当然、なんだけど、管理者の存在まで許容しているのは、勧善懲悪の物語ならともかく、価値観の多様性を認めるこうした作品においては割と珍しい気がする。
でも、そういえば、渡瀬作品の歴代の主人公って、みんな、強い力を持っているけれど、それを活かそうとしない、という少年向けの作品としては妙に枯れた人物造形の人間ばっかりなんだな。そう考えると、こういう舞台設定は必然なのかも。いやまあ、これからフェリオが王奕となる可能性は捨て切れないけど、それはむしろ、リセリナ父っぽいんだよなー。
ま、戯言でした。なんか最近『百億千億』読んでたら、ちょうどそんな話だったもので。
えーと、本筋としては、アルセイフ関連の人間関係を総浚い的な、割とパタパタとした片付けっぷり、なんとなくラスボスっぽい仮面の男の登場、そして、三角関係の深化、とインターミッション的な内容の割に盛り沢山といった感じで、大変に美味しゅうございました。ただ、あれをああいうふうな形で処理してしまうのは、いろいろ勿体無いかな、という気はしましたが。
ともあれ、次巻が大変に待ち遠しい。
評価:B−