『クールキャンデー』若竹七海

クール・キャンデー (祥伝社文庫)

クール・キャンデー (祥伝社文庫)

うわあ、うわあ、うわあ!
黒い! 非道い! えげつない!
と、三拍子揃ってしまった若竹七海の傑作中篇。十四歳の少女の軽快な一人称で語られる物語に、こんな毒仕込むなんて、どれだけサディストですか!と問い詰めたい気持ちもそこそこに、「でも、若竹だしなあ」と瞬時に自己完結してしまった私が好き。
それにしても、ひどい!


誕生日と夏休みの初日を明日に控え、期待に胸膨らませていた渚に舞い込んだひとつの訃報。それが、最高の季節だったはずの夏を、最悪の季節に変えた、その始まりだった。義姉の死亡、出没する痴漢、そして義姉をストーカーしていた男の疑わしい事故死。容疑者にされてしまった兄の疑いを晴らすため、渚は駈け回る。「兄貴は無実だ。あたしが証明してやる!」


というのが概略。それが、およそ160ページ程で語られる。主人公たる渚は刑事でもなければ、探偵でもない。ただの少女だ。しかも、特別頭が切れるって程でもない。だけど、彼女は走り回る。兄の無実を晴らすため、そして、何より彼女の生活を守るために。そんな中学生には重過ぎる苦境に陥りながらも、渚は決して暗くならない。語り口はあくまで瑞々しく軽快、時折ユーモアすら交じる。そうして、段々と感情移入していった先に、迎える結末は本当に衝撃的。まあ、真相に思い巡らす前に終わってしまうような長さな所為ってだけな気もするけれど、そもそもこの長さで出来ることなんて限られているわけで、むしろ作者の手腕に感嘆するべきでしょう。
ああ、それにしても、本当にひどい!
評価:B+