『眠り姫』貴子潤一郎

眠り姫 (富士見ファンタジア文庫)

眠り姫 (富士見ファンタジア文庫)

ライトノベルとしては珍しい、連作ではない純然たる短編集。
表題作以外はどれも及第点の出来。というか、内容も題名としてのセンスも微妙過ぎるものを表題作に掲げるあたり、理解に苦しむのだけれど……。って、ああ、俺が少数派なだけか。以下、それぞれについて。


「眠り姫」は、素晴らしい説得力のなさ。前作の語り直しだそうだけれど、異世界という免罪符によってフォローされていた不自然さが、現代に舞台に持ってきたことで一気に噴出してしまった感じ。「汝、信心深き者なれば」は、手付きにされた女中が、人外のものに復讐を願うという、わりとオーソッドクスな話。いつのまにか現実が変容している、という描写はちょっと好き。「さよなら、アーカイブこれがベストかなあ。いたずらで存在しない本の読書感想文を書いたために、その架空の本を探す羽目になったのだが……という話。このくらい肩の力が抜けていた方が好ましいですね。淡い恋心が、感傷とともに語られるっていうのもベタだけど、大仰でない分すんなり飲み込める。「水たちがあばれる」は、周期的に津波が訪れるようになってしまった世界が舞台の、いわゆる終末もの。中途半端に設定が明かされたのと、確かに技巧的ではあるけれど後出し感の強い構成の所為だろうか。なんだか連作短編のうちの途中の一篇だけを抜き出して読まされてるような消化不良感が。「探偵真木シリーズ」の三篇は、これまたオーソドックスなハードボイルド風味の探偵もの。お得意客がその筋の人だったりする、ジャンクな味わいは割と好み。映画だったり、ビートルズだったり、作者が好きなものを詰めこんでます感も楽しい。謎解き部分も存外よく出来ていて、一般文芸に混じっても違和感ない、というか、ライトノベルの棚にある方が違和感ある感じ。あと、中年と文中でしっかり書いてあるのに、美形青年に描いた挿絵の人、怒らないから出てきなさい。


総じて、シリアスになればなるほど上滑りする印象。前作でもいまいち人物描写が役割に殉じているというか、今一歩踏みこみが足りない感じだったので、これはまあ今後に期待って感じかなあ。文章力自体は、ライトノベル界隈でも上位に位置しているとは思うので。ただ、資質的に富士見ファンタジアというレーベルに合わない気はそこはかとなくするのですが。
評価:C+