『ユービック』フィリップ・K・ディック

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

『アンドロイドは〜』はいまいちよくわからなかった私でも、これはさすがにおもしろさがわかった。なんでかなあ、って思ったら、対立構造が明確なんだな、これ。敵味方がハッキリしている。その上で、難しい論理や哲学を持ち出されるなら、流れで理解しやすいし、また理解しようという気になる。
だから、逆にいえば、その意味では『アンドロイドは〜』の方が、作品としては上なのかな、という気もする。現実の酩酊感では明白にあちらの方が上だし、悪夢的描写も本作におけるラストのそれは、決してひどく独創的なものではないのだから。いや、その見せ方は実に鮮やかだとは思うけどね。更に言えば、それが作品としての中核を占めるものではないのだから、まあ戯言の類です、これは。
それに、より読みやすく仕上げたこちらの方が、圧倒的に好ましいとも思う。あくまで個人的な意見だけれど。とまれ、ディックの入門的作品との声も聞かれるだけあって、大変に読みやすく楽しい作品でした。
評価:B+