『MISSING (双葉文庫)』本多孝好

MISSING (双葉文庫)

MISSING (双葉文庫)

上手いなあ。感動するより先に感心してしまったよ。そんなわたしは、たぶん厭な読者。デビュー作を含む全5篇の処女短編集。
とにかく文章が巧い。すらすらと読めるし、「いいな」と思う描写も結構ある。衣良とか伊坂とかに雰囲気が近いかな。ま、文庫の表紙見りゃ大体予想付くか、それは。たぶん分類するなら日常の謎系に当てはまるんだろうけど、トリック自体にはあまりこだわっていない感じ。ていうか、後ろの篇になるほどミステリーじゃなくなってるし。ミステリ部分はあくまで従で、何かを“MISSING”した人の感情を書くのが主なんでしょう。
「眠りの海」では恋人を失った教師が謎を解かれることによって(真相によってではなく)救われ、「祈灯」では妹を死なせてしまった女性と「僕」とその妹の2重映しの関係が描かれる。老人ホームのお祖母ちゃん連にせがまれてある老人が隠していることを探る少しコミカルな「蝉の証」で語られるのは去りゆく者の思いだし、いとこのルコと「僕」の関係を描く「瑠璃」では過ぎ去ってしまった思い出が語られる。最後の「彼の棲む場所」は、居る筈の人間が居ないという、まあ変則的ではあるけど喪失感には変わりない*1。……羅列してみると、結構偏執的だな。
それにしても、せつない系に仕上げているけど、底にあるものはかなり暗いよね。まあだから、あざとく感じながらも読めるんだけどさ。
評価:B−

*1:それにしても、ありふれた題材をこういう風に料理するなんてやっぱり感心してしまう