『老いたる霊長類の星への賛歌 (ハヤカワ文庫SF)』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

あー、もー格好いいなあ、ティプトリーはっ!
そんなわけで身もだえしてしまう、ヒューゴー・ネビュラ両賞受賞の「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?」を含む全7篇の中短編集。以下、いくつかについて雑感を。

  • 「汝が半数染色体の心」

系内唯一の居住者のいる惑星、エスザア。住民たちが“人類”と認定できるかどうか調査するために訪れたイアンとパックスは、厚く歓待されたものの何か隠されていることも感じていて……。バイオミステリーともいうべき、アイデアの実に素晴らしい好篇。また異星人間のラヴストーリーでもあって、ラストは何とも切なく、そして残酷。ただ、ちょっとした生物学の知識がないと辛いかも。

  • 「一瞬のいのちの味わい」

人口の膨れ上がった地球の、新天地を探すため旅立ったケンタウル号。ようやく居住が出来そうな惑星を見つけたものの、そこから持ちかえった生物に触れた船員の様子がおかしくて……。まあこれもひどい結末ではある。アイデアに関してはもう凄いとしか言いようがない。ただ、若干冗長で主人公とその妹のその関係性は必要なのか、と思わないでもない。

  • 「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?」

宇宙船<サンバード>の乗務員は太陽フレアに巻きこまれ、未来へと跳んでしまう。そこで見た地球の姿は、彼らの目からするとひどく異様なものとなっていた……。気にするところでないのはわかっていても、そんな簡単にタイムスリップしていいのか、と思わないでもない。閑話休題。結局、著者はフェミニストなのかそうでないのか、あるいはどちらとも嫌いなのか。そうした疑問が浮かぶほど、どちらに対してもその視線は冷ややか。個人的には、実際に同じ状況に陥っても「そうはならないよなあ」という思いが捨てきれないので、いまいち乗り切れなかった。それにしても、題名が格好良過ぎる。惚れる。

  • 「ネズミに残酷なことの出来ない心理学者」

題名通りの内容。ただ、展開は予想もつかないところへ。もう全編、アイロニーアイロニーアイロニー! 素敵! ラストなど身震いしてしまったことですよ。

  • 「すべてのひとふたたび生まるるを待つ」

あらすじ省略。実際に読んだ方が早い。実に格調高い文章で、ラストを飾るに相応しい。冷静に考えると説明が足りない気もするけど、わかった気になれるので問題なし。
評価:B