『マルドゥック・スクランブル』冲方丁

おもしろい。確かにこれは話題になるはずだわ。
あらすじ。少女売春婦のバロットは、雇い主シェルに謀られ車ごと焼死させられそうになる。済んでのところで命を助けられるバロット。救い主である「委任事件担当官」の2人――ネズミ型万能兵器のウフコックとドクター・イースターは、目覚めた彼女に告げた、「マルドゥック・スクランブル−09を選択して、シェル逮捕の為に協力してくれ」と。一方、シェルの側の担当官であるボイルドの魔の手が彼女に迫っていた。お互いの有用性を証明するための戦いが今、始まろうとしていた……。

一言で言ってしまえば、バロットの成長物語。しかし、その過程がすごい。序盤は今まで何の力も持たなかったバロットが、ウフコックを手にすることによってえらく強くなるなどちょっと簡単に過ぎる気もするけど、やっぱり痛快で。その後、力に溺れてピンチに陥るあたりも実に健全。しかし、シェルの記憶を奪うためにカジノに行くあたりで様相は一変。まるでギャンブル小説(というジャンルはない気もするが)のよう。その暴走っぷりは、ひたすら駆け引きの連続で面白いものの「あれ、俺、SFを読んでいたんだよね?」と思わず確認したくなってしまう程。しかし、驚いたのは一連のカジノのシーンが終盤のボイルドとの決闘において、成長した事を示す根拠としてきちんと活かされていること。こんな成長の確認のさせ方は、他に知りません。や、脱帽です。
バロットの背景にあるものは結構どろどろしていて、それについてもきちんと言及されているのだけどその割にあまり切実に胸に来なかった。それはきっと、バロットが最初から可哀相だけれどもウフコックを素直に受け入れるなど可愛らしい少女として描かれているから、な気がする。読者に愛される存在として設定されているから、悲惨さが見えづらいと言うか。まあ、屈折していたらよかったかと聞かれれば、否なので別にいいんだけど。まあ、これは僕が男だからってのもあるかもしれませんね。
むしろ、今まで愛されてこなかったバロットが愚直にウフコックを信頼する健気さの方が印象に強い。いじましいまでの愛ですよ、奥さん。ある意味、立派な萌えキャラといえるのかもしれません。個人的には、そういう気はしないけどw
全体を見て、成長物語と言う軸が揺るがないだけ話としてわかりやすく、SF的なガジェットも感覚的に捉えやすいのもあって、割ととっつきやすいのではないかと。キャラクター性の付与に関しても上手く見分けがつかなくなることもないし。いまさら言うまでもないけど、お勧めです。あー、やっぱり買って手元に置いておきたいなぁ。
どうでもいいけど、あとがきは語り過ぎで格好付け過ぎだw