『壜の中の手記』ジェラルド・カーシュ

壜の中の手記 晶文社ミステリ

壜の中の手記 晶文社ミステリ

いろいろ感想は浮かんでいたのだが、解説で見事に言い当てている部分があったのでそのまま引用してしまおう。曰く、「アイディアの豊穣さにもかかわらず、カーシュにはアイディア・ストーリーの作家と呼ぶことを躊躇わせる何かがある」。
以下、気に入った短編いくつかの感想を。
「豚の島の女王」
蝿の王のフリークス版といった趣き。どんどんと悪い方向へと転がっていく様がいっそ心地よい。
「黄金の河」
一千万個のトクテ・ナッツのうち、一つだけ知恵を授かった、という発想がとにかく素晴らしい。話の展開自体も何とも不器用な感じで不思議な味わい。
「壜の中の手記」
要するに『注文の多い料理店』。主人公たるアンブローズ・ピアスのことを知らないぶん、真に面白さがわからないだろうことは残念。
「破滅の種子」
最初に吐いた嘘がどんどんと大きくなっていき、やがては本当になっていくというトンデモ展開が楽しい。最後のオチの解釈によって、読後感が変わりますね、これは。
「刺繍針」
作中で、いちばんこわい一篇。そんな馬鹿な、と言えない時代に既になっているあたり恐さ倍増であります。
「狂える花」
マッドサイエンティストはやはりよいものです。展開自体はフツー。
「死こそ我が同士」
どんどんとエスカレートしていく死の商人っぷりが素敵。全編ブラックユーモアに溢れていますが、ラストはそこはかとなく恐ろしい。

思っていたよりはわかりやすい作品が多かったかな。や、おもしろかったです。
ところで、ほぼ全編語り手が当事者ではなく、第三者ってのは何か意味があるのかな。そこらへん考察してみるとおもしろいかもしれないけど、面倒くさいからいいや(えー