『アクアリウムの夜』稲生平太郎

アクアリウムの夜 (角川スニーカー文庫)

アクアリウムの夜 (角川スニーカー文庫)

おお、これは怖い。

ある日、ぼくと高橋はあるビラに導かれて、ある興行を見に行く。カメラ・オブ・スキュラ。脅威の科学魔術と題されたそれは、その実ただの巨大なピンホール・カメラだった。しかし、そこに写る筈のないものを見たその時から、ぼくらの日常は変わり始めていく。こっくりさん、霊界ラジオ、金星人からのメッセージ……。少しずつ、けれど確実に日常は削られていく。そして、遂に……。

日常が侵食されていく様が、ともかく、怖い。ひたひたと足音さえ聞こえそうなほどの、ゆっくりとした変化。退屈でもささやかな幸せもあった日常に陰が落とされ、夜は悪夢と分かち難くなっていく。明かされた謎は、その次の瞬間にはまた多くの謎を生み出し、最後、完全に日常は裏返る。確かだと思ったものがひどく曖昧になり、正常だった筈のことが狂気へと摩り替わる、その恐怖といったら!
助走の長いジェットコースター、という感じ。じっくりと伏線を張ってきて、さてどうするかと身構えたら、そんな思惑を笑い飛ばすように一気に駆け抜けていく。エピローグの題名が切ないなあ。後味の悪いのも良し。おもしろかったです。

評価:B−