『七回死んだ男』西澤保彦

七回死んだ男 (講談社文庫)

七回死んだ男 (講談社文庫)

びっくり。西澤作品なのに、後味が悪くありません。


1日を9回繰り返してしまうという奇妙な「体質」を持つ少年、大庭久太郎。新年会の為に、祖父の家を訪れた彼は、殺人事件に出くわす。祖父が殺されたのだ。しかし、おかしい。事件など起こるはずがない。「1周目」の時にはそんな事件など起きなかったというのに! かくして、久太郎は事件を回避するために奔走するのだが……。


氏のSFパズラーの嚆矢にして、未だ最高傑作にあげる声も少なくないだけあって、素晴らしい出来。多くの読者が途中で気付くだろう一応の真相が、更にひっくり返されるあたりは上手いなあ、と。ただ、動機のドロドロさがない分、どことなく物足りない感じがしてしまう。贅沢?
しかし、それにしてもこの人間関係はいっそ潔いくらい設定のために逆算された感たっぷりの人工的さ加減だなあ、と苦笑してしまう。ギャンブルに散在する父親→長女は大学へ進学、エリートと結婚し家を出て父親と断絶→三女は自分の高校の教師の家に転がり込んで、同じく断絶→父親倒産、次女と心中を決心→捨てるつもりで買った馬券が大当たり、さらに捨てようと思って買った株も大当たり→今では全国チェーン店を経営する資産家に→遺産のおこぼれをいただこうと復縁を計る長女と三女。どう考えても力業過ぎます。だが、そこがいい。
あんまり内容について語ってないような、それでいて地味にネタバレしているような、そんな感じですが、珍しく後味もよく尚且つよく出来ているので、大変にお薦め。というか、必読。ぜひ読みましょう。
評価:B