『日蝕』平野啓一郎

日蝕 (新潮文庫)

日蝕 (新潮文庫)

十五世紀末のフランス。異端審問の嵐吹き荒れる中、学究の為に若き神学者が或る小村を訪れた。そこで、彼は高い学識を持つ錬金術師と出会うのだが……。


典雅な擬古文体で綴られる、その語り口は三島由紀夫の再来と謳われるだけあって、確かに大変に達者で、若くしてこれを物した作者には驚愕の感を禁じえないわけですが……うーん、一目惚れするほど*1ではないんだよなあ。あくまで個人的感想ではあるのだけれど、何というか技巧的に過ぎる感じ。
ストーリー展開にも似たものを感じていて、終盤、とりようによってはかなりのトンデモ展開になるのですが、そこでも理性を感じてしまう。全てのキャラクターが、作者の計算の下に動かされているような、そんな印象を抱いてしまっていまいち食い足りない。
個人的には、もっと情熱が迸って制御できてないような作品の方が好ましく感じます。
評価:C+

*1:余談。公平の為に(文章に)一目ぼれした作家を書いておくと、北村薫中島敦スタージョン水村美苗、あたり。もちろん、両者にあるのは優劣ではなくて単純に好きか否か、だけですよ。