『語り手の事情』酒見賢一
- 作者: 酒見賢一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2001/07
- メディア: 文庫
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一言で言うと、「ミもフタもない話」。
それは、微に入り細を穿つ性描写*1はもちろんのこととして、それ以上に“語り手”の存在によって、そうした印象を持たされます。
特に三人称により記述された作品において、「それが誰の視点なのか」という問題は、常に孕んでいるものです。それに対する解答は、いわゆる神の視点だったり、或いは実質上の一人称だったり、とまあアプローチは色々ではありますが、この作品においては全く別。そうした不自然さを逆手にとって、あらかじめ“語り手”が存在することを自明のこととして話が進められます。言ってみれば、楽屋オチですね。実際、ヴィクトリア時代には存在しないはずの知識を(そうと断って)“語り手”は披露していますし。
「どこにもいない」ということは、「どこにでもいる」ということなのだ。
そんな傍観者であった彼女(or彼)が、“登場人物”の場へと引っ張り出されるのが4章以降だったりするのですが……まあ、ネタばらしはこの辺にしておきましょう。
あ、でも一つだけ言っておきたい。233ページの展開は吃驚。いろいろと驚愕です。
というわけで、さらっと読める割にワザありな作品で、大変美味しゅうございました。
さて、余談。この作品、プリーストの『魔法 (ハヤカワ文庫FT)』にこの設定は通ずるものがある気がします。案外、あの終盤の展開にポカーンだった貴方にオススメ……なのかもしれません*2。
評価:B