『願い星、叶い星』アルフレッド・ベスター

読んだー。今までの奇想コレクションの中では*1いちばん分かりやすかったのではないかしらん。
以下、それぞれ雑感。内容に軽く触れるので気にする人はご注意をば。

  • 「ご機嫌目盛り」

編訳者あとがきでも言われているとおり、傑作。これだけで元取れた、といえる。いわゆる<狂ったロボット>*2もの。冒頭に疑問符を浮かべ、読み進めるにつれ状況が掴めるようになり、途中で段々と違和感を感じ始め、ラストでそれが解消され、冒頭に戻って感嘆する。すばらしい!

  • 「ジェットコースター」

時間旅行もの。アイデア自体はなかなかに狂っていて大変よろしいのですが、順番が順番だけに物足りない。

  • 「願い星、叶い星」

解説に従えば、いわゆる<恐るべき子供たち(アンファン・テリブル)>もの。ブキャナン姓の家々を尋ねる男の目的はっ!という最初の謎の提示、話の流れなどは実におもしろかったのだけど、最後の一文で台無し。余韻もクソもあったもんじゃない。そこまで強調しなくたってわかるっての。

  • 「イヴのいないアダム」

これはいうなれば、終末もの。地球最後の生き残りが最後に目にするものとは!? みたいな感じ。最後に見えた一条の希望は確かに美しいけど、何となくそう考えること自体が人間の思い上がり、という気がして微妙にのれず。あと、題名が素晴らしいですね。

  • 「選り好みなし」

舞台は失った人口が出生数の2倍にのぼる近未来、統計学者アディヤーは自国の人口が増えていることを発見する。何故だ? という序盤の謎の散りばめ方は好き。ただ、最終的な結論がわりと健全なものな所為か、食い足りない印象。

  • 「昔を今になすよしもがな」

地球最後の男女、ただし両方とも狂人みたいなっ、という作品。それだけあってわけ分からん展開だが、そこがいい。<奇想>というテーマにはいちばん沿っている気がします。

  • 「時と三番街と」

これもタイムトラベルもの。普通にSFしてる。軽い感じの話だけど、短編集全体の構成を考えると息抜き的にはちょうどいいのかも。

  • 「地獄は永遠に」

この世のあらゆる刺激に飽いた6人が悪魔と契約して……みたいな話*3。各人各様に訪れる「心から望んでいるもの」の様は、どれも幻想味溢れていてすばらしい。バリエーションもあって、さながら連作短編のよう。逆にいえば、まとまりはそんなにない。それと、最終的に「何故こうなったか」についての解明があるのだけど、こういう話にそういうのがあるってのもどうよ?と思わないでもない。ただ、巻末を飾るのに相応しい重厚さではあったかな。なんだかんだ言って、わりと好きですし。

全体を見渡して、もう少しバリエーションがあった方が良かったなあ、とは思うものの一定のレベルは保たれているので文句は当然ないです。つうか、「ごきげん目盛り」を読めただけで満足なわけで。次点は「昔を今になすよしもがな」「地獄は永遠に」かな。『虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫SF)』の方も早く読もう。それと相変わらず、松尾たいこの装丁はいいですね。揃えたくなってしまいます。もちろん、質の高さがあってこそなのですが。

*1:ただし、『フェッセンデンの宇宙 (全集・シリーズ奇想コレクション)』は未読

*2:あとがきを読む限り、そういうカテゴリーで括れるそう。ぱっと思いつくのだと『われはロボット (ハヤカワ文庫 SF 535)』みたいなのかな?

*3:ちょっと違うけど……