『忍法八犬伝』山田風太郎

忍法八犬伝 山田風太郎忍法帖(4) (講談社文庫)

忍法八犬伝 山田風太郎忍法帖(4) (講談社文庫)

ああ、おもしろうてやがて悲しき、を地でいく素晴らしい完成度。どのくらいすごいかって言うと、しかつめらしく何事かを言う気も起きないくらい。
あの名作(といっても、未読ですが)『南総里見八犬伝』を下敷きに、その子孫たちが盗まれた“忠孝悌仁義礼智信”の八つの珠を取り返すために、伊賀のくノ一たちと忍術合戦を繰り広げる、というのが大まかなストーリー。おもしろいのが、その子孫たちというのが皆、例の“忠孝悌仁義礼智信”に反感を覚えている、という辺り。そんな彼等が唯一、忠義を尽くすのが主君の奥方である村雨の方。我関せずをきめていた彼等が、彼女に頼まれると人が変わったように、死地へと赴いていくのが小気味良くも切ない。滅びの美学、っていうと何か問題ある気もするけれど、やっぱりそれはあるよなあ、と思う。それでも悲壮感がそんなにないのは、彼等が決して気負ってではなく、惚れた村雨の方にいいところを見せよう、という子供じみた見栄からの行動だからでしょう。
史実との擦り合せがそんなにない分、『風来忍法帖』には譲りますが、これまで読んだ中でも上位にくる楽しさ。450ページ強が、あっという間です。
評価:B+