『恋愛ディストーション』犬上すくね

まあね、嫌な予感はしていたよ。絶対にこれは「劇薬」だって。
案の定。
死んだ。身悶えた。部屋中を駆けずり回った。


そんなわけで、大変にこそばい恋愛マンガでした。勿論、こそばいだけじゃなくてよく出来ているんだけれどね。メインとなる2つのカップルがいて、彼ら含めて周りの人たちの普通な恋愛模様を自然体で描いている、というのが概略。割と恋愛の汚いところも描きつつ、決してドロドロはしない、というあたりがポイントかな。まあ、成分的には恥ずかしい分の方が含有量多いけど。
個人的に好きな話は2巻のひつじ飼いの話*1。キャラ的に小向井が好きっていうのもあるんだけれど、それ以上に感情に名前を与えることによって始まる、というあたりが「だよなあ」と。
少し説明。主人公のひとり、大前田は友人である小向井に、ある日こう言われる。「緑川さんのことが好きなんだろう?」と。それからというもの、どうも彼女のことが気になって……という話。
ここで「小向井クンは鋭い」と捉えるのはたぶん半分正解で半分間違い。彼は、大前田の曖昧な感情にかたちを与えたに過ぎない。言葉というのは、常に差異しか示さないからだ。換言すれば、「〜〜である」ではなく、「〜〜でない」でしかない。全ての意味は関係性の中にしか存在しない。「好き」という感情があるわけでなく、「好き」という記号が示す意味の網にからめとられたゲシュタルトの一部分があるに過ぎない。名前を与えるということは、有り得た可能性を全て捨てて、或るひとつに決定するということなのだ。
……などと、別にこんな七面倒臭いこと考えるような話ではないはずなんだけどなあ。おかしいなあ。なんでこんなこと書いてるんだか。

*1:なんて書くと語弊があるけれど、本当に羊飼いが出て来るわけじゃありません。念のため。