『居場所もなかった』笙野頼子

居場所もなかった (講談社文庫)

居場所もなかった (講談社文庫)

文字とは記号でしかなく、そこに意味を与えるのは解釈する読者である以上、読書というのは創作と同等に創作的な作業であるべきではないか、なんて嘯いてみたら少しは頭良さそうに見えるかしらん?
なんて与太はともかく、いわゆる純文学と称される小説群はあるミステリ作家の言を無邪気に信じるならば、世界をメタファーでつくるものらしい(対して、だとするならば因果で作るのが中間小説ということになるんでしょう)。まあ、方法論に還元してはいけない分野ではあるんだろうけれど、個人的には結構納得できる。ただ、前言を翻すようだけれど、そうやって全てを分解していってしまうと、作品世界がひどく狭くなってしまうような気もする。まあ、結局は読む人の自由、ということではあるのでしょうが。
さて、本作は怒れる純文学作家笙野頼子の、家探しのお話です。知る人ぞ知る、なのか、周知のとおり、なのかは知らないけれど、作者は純文学にSF的な手法を取り入れたりしていて、これもそのひとつ。不動産ワールドに迷いこんだり、背中に穴が開いたりしています。そんなわけだから、正直難解であるわけです。それこそ読みながら「これは何のメタファーなんだろう?」とか考えたりとかしてね。それで、まあ結局「本当に自分は正しく読み解けているのかな?」と不安になったり。もちろん、読者には誤読する自由があるわけで、気にすることではないのだろうけれど、やっぱり“正解”したいじゃない。そんなわけで、どうにもすっきりはしない読後感でした。ただ、主人公の所在無さ、というか、「自分が居るべき場所などどこにもない」みたいな感覚は私みたいな未熟な読者にも痛切に感じられました。
評価:C+