『ALONE TOGETHER』本多孝好

ALONE TOGETHER (双葉文庫)

ALONE TOGETHER (双葉文庫)

うーん、巧いなあ。ここで上手いでなく巧いという表現を使っているのは単純に好悪の問題で、つまり私はこの作品を好意的に受け取ることができなかった、ということ。面白いし、良く出来ていると思うけれど、私はこの作品を好きにはなれませんでした。
その理由の1つは、主人公の物の考え方。というより、世界の捉え方かな。例えば、こんな科白。

「母親は息子を愛するものだ。そんなの嘘です。あなたと息子さんは別の人格を持った、別の生き物です。あなたが愛しているのは、あなた自身だ。それ以外の何者でもない。(中略)けれど、それは恥ずべきことではありません。当たり前なんです。あなただけじゃない。誰だってそうです。……」

いったい何様のつもり、と言いたくなるような思い上がった言い草*1。しかし、困ったことに全く同意している自分がいるわけです。つまり、近親憎悪……と言うのはさすがにおこがましいですが、まあそれに近い。更に言ってしまえば、私ごときでも到達できる浅い批判してるなよ、とすら思う。
でも、何より気に食わないのは何度か出て来る類似のシーンの着地点が肯定というより、開き直りに感じられてしまうところ。引用部分の最後、主人公はこう結ぶ。「あなたは気付いてしまった。ただ、それだけのことなんです」と。
もちろん、最終的にこうした無責任な言説の報いはきっちりと主人公に降りかかってくるわけで、この非難は的外れもいいところなのですが、それでも途中までのむかつきがあることには変わらない。坊主憎けりゃ、じゃないけれど、まあ言ってしまえば相性が悪かったのでしょう。
客観的に見て、十分以上に面白かったとは思います。
評価:B−

*1:と言いつつも、主人公がこうした言動をしてしまうエクスキューズは用意されていて、けれど故に“巧いなあ”という感想を抱いてしまうのですが