『名探偵は密航中』若竹七海

名探偵は密航中 (光文社文庫)

名探偵は密航中 (光文社文庫)

昭和5年7月、倫敦へ向けて日本を出港した豪華客船・箱根丸。優雅な、けれども退屈になるはずの船旅は、しかし出港早々の殺人事件の容疑者が乗り込んでの大捕物を嚆矢に、令嬢の脱走事件、幽霊船との遭遇など、物騒ながらも賑やかなものに……。
長編かとおもってたら、連作短編だった、という個人的な驚きはともかく。個々の事件は小粒ながら工夫を凝らしたものが多い。いきなり変化球の「殺人者出帆」、どちらとも解釈できるラストの怖さが真正ホラーにも劣らない「幽霊船出現」、真相がいろいろ台無しな「船上の悪女」あたりが、個人的には面白かったかな。登場人物もリアルに自分勝手で嫌らしくて人間臭いのが素晴らしい。是非お友達になりたくありません。
ただ、短編ごとに中心となる人物が異なっているのが、どうにも統一感を乏しくさせてしまっている感じが。それをつなぐのが、章の合間に挟まれる「旅行記下書き」なのだけれども、うーん。やっぱり、バラバラな感じは否めないなー。
一番の不満は、曖昧な決着にしている一篇があって件の「旅行記」において疑問を提示するのだけれど(そして、その推理は決して的外れなものでない)、最終的に解決がないこと。全てについて白黒ハッキリつける必要はないけれど、わざわざ触れておきながら投げっぱなしなのは、個人的にはちょっと納得できないなー。ラストのオチも、唐突過ぎて驚くに驚けないだけ余計に。
決してつまらなくはないんだけれど、どうにも消化不良といった感じ。
評価:C