『故郷から10000光年 (ハヤカワ文庫SF)』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
- 作者: ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア,伊藤典夫
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1991/04
- メディア: 文庫
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……なーんて、誰に/何に対してか判らない皮肉をひり出すほど、心酔しているわけでも凄さをわかっているわけでもないのですが、うん、発散できない何かが溜まっているとして、可哀相な人だなあ、という目で見てやって下さい。
- 「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」
宇宙人という存在の消化の仕方がおもしろい。ヴィジュアル的に容易に思い浮かべられないと言う点において、実感として感じにくいけれども、結末におけるショック度は(それでも)高い。で、そこはかとなく厭世観。スバラシイね!
- 「雪はとけた、雪は消えた」
正直、よくわからなかった。女とオオカミが、男と戦う話? あ、いま嗤われたっぽい。解説によると、書かれなかった長篇小説の冒頭部ということで、判り辛かったのも道理か。あ、題名は大変に格好良いですね。
- 「ヴィヴィアンの安息」
割と普通の良く出来た短編、といった印象。SFという設定でなくても描けそうな話ではあるけれど、ヴィヴィアンという男の切なさという意味においては確かに効果的。ラストは、ひどく滑稽でひどく哀しい。
- 「愛しのママよ帰れ」「ピューパはなんでも知っている」
珍しくシリーズキャラクター*1による連作。ともに、地球に来訪してきた宇宙人との、ユーモア溢れる(多分に黒いが)ファースト・コンタクトもの。ていうか、普通にコミカルなものも書けるのね、と案外驚き。前者は、巨大なエイリアン、しかも女性だらけ、が起こす騒動で、割とえげつない。作者が女性であることを隠して書いていたことを思うと、楽しみ方としては幾分邪道ではあるが面白い。後者は、信心深いらしいエイリアンたちが訪れて……という話。現実への皮肉としては、割とストレート。それだけに、解決があっさりし過ぎかな、と思わないではない。
- 「苦痛志向」
ラブストーリーを期待したら、望郷の思いが勝っていてチト残念。苦痛を感じない人間であるところの主人公が、色々四苦八苦する話、と書くと色々身も蓋もない気がするが、まあそんな感じ……か? 終わり方は好き。
- 「われらなりに、テラよ、奉じるは君だけ」
だから、集中出来ないときに読むもんじゃないって言ってるでしょう! 登場人物が多くて、俺の脳では捌き切れんよ。というわけで、宇宙を舞台にした競馬、あるいはそれに類する賭場の話。まるで、ディックみたい。フランシスの方ね。これもコミカルな感じ。矢継ぎ早にトラブル、厄介事に襲われてんやわんやする主人公たちの明日はどっちだ!?的な。アイデンティティの揺らぎ、など扱っていることは重くて深いけれどもね。
- 「ドアたちがあいさつする男」
わーい、ナンセンスだー。というわけで、珍しく現実の世界に不思議な設定を持ちこんだ、という趣きの一篇。内容的には、題名通り文字通り。洒脱ですね。尚且つ、ロマンチック。後味も悪くない。
- 「故郷へ歩いた男」
だから、集中出来な以下略。いや、根幹のガジェットはわかるんだけど、凄さがいまいち俺に伝わってない。ただ、文章はひたすらに格調高く格好良く、余裕のある時にまた再読してみたいと思ったことですよ。
- 「ハドソン・ベイ毛布よ永遠に」
ロマンチックで甘々なラブストーリー、かと思いきや……。ラスト、らしくなる辺りで安心してしまう自分は、人としてどうかと思う。言ってしまえば、タイム・トラベルものなんですけど、それをする動機の部分が目新しい。着眼点が面白! そして、結末は残酷。でも、大丈夫、あそこからきっとリプレイが始まるよ!(作品が違います
- 「スイミング・プールが干上がるころ待ってるぜ」
ぶんかおせんはこうやってはじまるんですね。みなさん、きをつけましょう。
大変に面白い。終始、ニヤニヤしっぱなしの俺。最低ですね。
- 「大きいけれども遊び好き」
宇宙人による遊びまじりの実験から始まる割と軽めの前半に対して、後半は諷刺的なところあり人間性についての思考実験ありのなかなか考えさせられる内容。これくらい意味が取り易いと楽なんだけどなあ。
- 「セールスマンの誕生」
さてさて、そろそろ疲れてきました! いえい。で、これは宇宙でセールスマンの話。着眼点がやっぱり面白いよなあ。マクロ的なところに、ミクロ的なものを放り込んでいるというか。狂騒的な感じで普通におもろい。中間管理職の悲哀を感じます。
- 「マザー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」
題名がロック。内容はラグナロクが起きてさぁ大変という話。嘘。でも、<ラグナロク>はあるよ。ここにあるよ。ただの宇宙船の名前だけど。北欧神話好きとしてはどうしても反応してしまうから止めて欲しい。解説によるとサイバーパンクのはしりだとか。ちっ、ロックじゃねえのか。道理で判らないはずだ。
- 「ビームしておくれ、ふるさとへ」
個人的には一番好きな話。主人公であるホービーの胸に去来する思いは、大いに共感するところのものであるし、最後、ポツリと洩らす弱音は切なく遣る瀬無く。最後の最後、ホービーが見た光景は真実であると願いたい。
なんだかんだで、全部について書いてしまう自分に乾杯。頑張って読んだ甲斐はあった、ということでしょうか。まあ、いまさら何を、という感じではありますが。
評価:B
*1:といっても、この2作だけっぽいけど