『ささらさや (幻冬舎文庫)』加納朋子

ささらさや (幻冬舎文庫)

ささらさや (幻冬舎文庫)

加納史上最高あざとい。そりゃ泣くさ。泣くともさ。泣かないでか! だからといって、開始数行で涙ぐむ俺をどうにかしろ。
などといいつつ、語り口はあくまでユーモアを交えた軽やかなもの。辛気臭くも安易なお涙頂戴ものにもしていないあたりのバランス感覚はさすがで、それは、主題としてサヤの成長物語を置いているからでもあるでしょう。冒頭でのいかにも頼りなくどうしようもなくお人好しなサヤ。彼女が少しずつ、周囲の人に支えられ、時には人の悪意に晒されつつも、いやだからこそ母親の自覚を持つようになっていく。その過程をこそ描いている点に於いて、凡百の「感動作」に伍することを回避しています。ミステリ的には少し弱いが余り気にならないのは、さやの成長の切欠として機能しているから、かな。
また、特筆すべきは魅力的なキャラクター。頼れる先達だがとにかく姦しい三婆、変わり者で姐御肌ないわゆる“ヤンママ”なエリカ、そして「馬鹿ッサヤ」の一声とともに他人の身体を借りて助けに現れる幽霊の夫。特に、三婆たちがわいわいと騒いでいる様は、思わず笑ってしまうほど。
著者の資質が、一番いい形で発揮された良作。個人的には、加納作品のベストに推したいくらい。や、堪能しました。
評価:B